富士電子音響芸術祭 2014
2014年5月24日(土)・25日(日)に、ピラミッドメディテーションセンタ(山梨県大月市)にて催された第5回開催記念特別公演となる富士電子音響芸術祭2014(FAF2014)に、AKAI professionalのRPM500 LE、RPM800 LEの機材協力をいたしました。
公演後、主催者の富士電子音響芸術祭芸術監督・吉原太郎氏、特別ゲストのフランソワ・ドナト氏、出演者の生形三郎氏に、RPM500 LEおよびRPM800 LEについてコメントを頂戴しました。
富士電子音響芸術祭2014について
富士電子音響芸術祭芸術監督 吉原太郎
2010年に第一回公演を開催した富士電子音響芸術祭は本年5周年を迎え、各機関のご尽力によりフランスより作曲家フランソワ・ドナト氏を招聘し、音響システムにおいてもこれまで拡張を続けて来たアクースモニウムに音場空間コントロールシステムNILEが新たに搭載され、総スピーカ数は70個による構成となった。
例年多種多様なスピーカで構成・構築するが、AKAI professional RPM800 LE、RPM500 LEは前方空間の比較的広いポジションへ配置することでこれまで不足していた前方空間の音の密度、応答性の向上、安定化を計った。詳細レビューは生形三郎氏、フランソワ・ドナト氏へ譲るとして、私が言えることは、例年にも増して音質の向上が確認できたことであり、多くの出演作曲家が満足されたことからも今回のシステム構成、配置は一定の到達点に達したと言えるだろう。
最後に今回協力して頂いた株式会社ニュマークジャパンコーポレーション関係者の皆様に御礼申し上げる。
AKAI professional RPM500 LE & 800 LE
フランソワ・ドナト(2014年5月29日)
富士電子音響芸術祭2014においてRPM500 LEと800 LEのモニタ・スピーカを初めて体験できましたこと、吉原太郎氏に感謝いたします。吉原氏やメンバの方々が構築した秀逸なアクースモニウムの中で、リファレンス・スピーカとして使用されていました。アクースモニウムにひと組のリファレンス・スピーカがあることはとても大切で、安定したイメージをしっかりつかみながら音を空間化していくことができます。アクースモニウムでのリハーサルを始めてすぐに、RPM500 LEとRPM800 LEが信頼性の高い製品であることを確信しました。複雑な構成のアクースモニウムを制御するのに頼りになる、しっかりしたベースを得ることができたからです。特に評価したいのは、
- 音のスペクトル全体の再現性の高さ
- ステレオイメージの安定性
- アクースマティック音楽コンサート会場での大音量時の瞬間的な耐性。この手のコンサートではスピーカを酷使するのが常ですので。
アクースマティック音楽のコンサートでの使用環境は相当特殊なので、製作スタジオ内で電子音響音楽制作やアコースティック楽器の録音をした時の、RPM500 LE & 800 LEモニタ・スピーカがどう聞こえるのかにも大変興味があります。そのような環境下でも絶対頼りになる製品だと確信しています。
結論として、このモニタ・スピーカは異なるスタイルの音楽への対応力に大変優れていると言えるでしょう。コンクレート音楽、実験音楽、器楽曲、電子音楽、フィールドレコーディング・・・どんなジャンルでも優れた実力を発揮するはずです。
フランソワ・ドナト プロフィール
François Donato [www.struzz.com] 1963年生まれ
独学で音楽を学んだ後、ポー大学、パリ近郊のジュヌヴィリエ音楽院、リヨン国立高等音楽院で学ぶ。1991年から2005年まで、国立視聴覚研究所・音楽研究グループIna-GRMの制作部門の責任者を務める。2005年9月よりトゥールーズに在住、作曲家集団éOleの技術コーディネータとして活躍する傍ら、トゥールーズ・ル・ミライユ大学応用造形芸術学部で音響技術とインタラクション技術を教える。主にコンサートのためのアクースマティック作品を制作している。国立視聴覚研究所・音楽研究グループIna-GRM、ベルリンのドイツ学術交流会DAAD、フランス文化省から作品の委嘱を多数受けている。それらの作品は、フランス内外の音楽祭やその他のイベントで演奏されている。ウイーンの音楽大学とオーストリア放送協会ORF 、オスロ・ウルチマ現代音楽祭Ultima、ワイマール、ダルムシュタット、バーミンガム、サン・ジャック・ド・コンポステル、バース、神戸、クレのFutura、ブラッセルのArs Musicaなどの音楽祭、ブエノスアイレスのレコレータRecoleta劇場のコンサート・シーズン、東京のCCMCの日仏コンサートなどである。1999年から2000年まで、ベルリンのドイツ学術交流会DAADとベルリン工科大学からの奨学金を受ける。1994年から2001年の期間、ハンガリーのコレオグラファ、パル・フレナック(Pal Frenak)とのコラボレーションを多数行う。
AKAI professional RPM500 LE、RPM800 LEをFAF2014で使用して
音楽家/オーディオ・アクティビスト 生形三郎
個性的な筐体カラー
今回使用したRPM500 LE、RPM800 LE(以下、RPMシリーズ)は、限定色という「赤色」のボディカラーが大変印象的で、そのルックスが本フェスティバルにおける演奏コンソールのイメージを大きく形作っていた。遠目に見ても目立つそのビビッドな色合いが、「電子音響音楽」が持つ世界観を、より想像豊かなものにしていたように思う。あえて主張のない筐体カラーを採用しているモニタスピーカがほとんどの中、限定モデル色とは言え、ユニークで貴重な存在だろう。
アクースモニウムにおけるRPMシリーズ
このフェスティバルで構築されるスピーカシステムは「アクースモニウム」と呼ばれ、高域用にホーン付きのコンプレッションドライバを持つ PA/SR 用途に設計されたスピーカ群を中心に、RPMシリーズの様なスタジオなどでのニアフィールド使用を想定した小型のパワード/パッシプ・モニタスピーカ群と、サブウーファや単体トゥイータなどの狭帯域再生スピーカの組み合わせによって構成されている。
PA/SR仕様のスピーカは主に広い空間を満たす音場を作り、モニタスピーカ群は会場におけるある特定の空間をスポット的に満たす音場を作るために、そしてサブウーファや単体トゥイータは、音色の変質や増強などエフェクト的・補助的な目的に用いられる。これらスピーカに送る音量をリアルタイムで操作し、メディアに記録された音響作品をライヴで空間に立体的に現前させるのが、アクースモニウムとその演奏行為だ。その中で、RPMシリーズはモニタスピーカ群の中に導入され、コンソール両脇にRPM500 LE、コンソール奥にRPM800 LEがそれぞれステレオ設置された。
RPMシリーズが持つサウンド
RPMシリーズのサウンドの特徴は、ソフトドーム・トゥイータが受け持つ、しなやかで広がり感のある高域と、ケブラー素材を使用したウーファによる、立ち上がりの早い低域だろう。特に、RPM800 LEはその筐体の大きさを活かしたバスレフ構造による量感豊かな低域再生が特徴的であった。また、モニタスピーカで一般的に採用されることの多い金属製トゥイータではなく、シルク・ソフトドーム製トゥイータが搭載されたRPMシリーズは、モニタ的で実直な高域特性を持ちつつも、大音量時においても刺激的な音質になり過ぎる事のない、バランスのよい音質であった。さらに、スタジオでの据え置き使用を念頭に設計されているためか、ユニット保護グリルが装備されていない事も、歪みのない自然な再生音と、ドーム型トゥイータならではの広がり感豊かな指向特性の実現を助けていると推測できた。
実際、今回導入されたスポット的スピーカの中でもRPMシリーズは、本フェスティバルでパフォーマンスを行った出演者たちによって演奏中に度々重用されていたし、かくいう私も頻繁に使用した。それは、セパレート型のマルチウェイシステムが中心となる今回のスピーカシステムの中において、周波数レンジの広い点音源的な音場を再現できるユニークな存在であったためであろう。
バイアンプ、パワード型の利点
加えて、高域ユニットと低域ユニットを別々に駆動するバイアンプ仕様であることや、アンプとユニットが最短距離で直結する事によるシンプルな信号経路がもたらす音の解像度と鮮度も、改めて実感した。これは、昨今のニアフィールド用モニタスピーカに共通する仕様ではあるが、信号経路がとかく冗長になりがちな大規模システムにおいて、あらためて信号経路の重要性を認識する事ができた。
以上の特徴から、本フェスティバルにおいてRPMシリーズは重要なポジションを担っていた。今回はコンサート会場というイレギュラーな場所での使用であったが、本来の使用場所であるスタジオ空間においても、ぜひその実力を体験してみたいと思わせてくれた製品であった。
生形三郎 プロフィール
音楽家、オーディオ・アクティビスト [http://saburo-ubukata.com/]
「音」に関して、「音楽」と「オーディオ=録音と再生」の両面から取り組む音楽家、活動家。作曲、編曲、録音制作、CDやハイレゾ作品のリリース、コンサートの企画、自作スピーカによるマルチチャンネル(サラウンド)・サウンド・インスタレーションの制作、録音技術を用いたワークショップ、オーディオ雑誌でのオーディオ評論や執筆、録音技術関係の書籍の執筆など、いずれも「音楽」と「オーディオ=録音と再生」の持つ魅力を伝えるため、そして自らが楽しむために、特定の形態に絞られる事なく「音」に携わる活動を行う。
独学での作曲・演奏活動を経て、昭和音大作曲科卒業、東京藝大大学院修了。在学時に国内外の著名な電子音楽作曲コンクールにて受賞。ACSM116主催「CCMC」及び「夏期アトリエ・パリ」に参加、FAF運営委員。作品は、世田谷美術館をは じめとする全国の文化施設やホールのほか、フランス、イタリア、オーストリア、ベルギー、韓国など海外でも上演。音楽作品のほか、身体表現との恊働作品、音響インスタレーション作品の発表も多数。著書に「クラシック演奏家のためのデジタル録音入門/音楽之友社」、レギュラー執筆及び連載を「月刊ステレオ誌 /音楽之友社」にて行う。また、各種文化財団やNPO法人より依頼を受け、「音響」や「録音」を媒介とするワークショップ活動も展開。
写真:奥山和洋